ON THE TOWN 第二幕のこと その1

♬ I Wish I Was Dead (死にたくなるの)
ダイアナ・ドリームとドロレス・ドロレスの歌でフラれた傷をえぐられるゲイビー。「死にたいー」のところで坂本くんががっくり肩を落とすのですが客席がこれになかなか気づかない回があって、心の中で「ここはゲイビーよ、ゲイビーを見て!」と何度叫んだことか(笑)オジーがゲイビーに買ってあげる人形が赤いドレスを着ていて、後でそれがゲイビーの夢につながるんですよね。人形なんていらないよ、って言ってたのに最後まで人形を離さずにアイビィを追いかけ続けたゲイビー。アイビィと重ねたのかな。さて、このあたりでオジーについて一言。この場面でもそうなのですが、全体を通してオジーはイノッチですよね。ほぼイコール。人形やスカーフを買ってゲイビーを慰めているのもチップと2人で盛り上がっているのもオジーなんだけれどもイノッチでもあります。オジーの中に自分を取り込むというよりも、自分の中にオジーを取り込んでいる感じがしました。しかもそれでちゃんと成立しています。どこもおかしくない。セリフをセリフとしてではなく、役に忠実にしゃべっている、とイノッチのことを褒めていたのは坂本くんでしたが、きっとこれがそういうことなんだろうなと思いました。

♬ Ya got Me (やってくれるね)
実際に舞台を見て一番化けた曲がこれです。手拍子が入っていてサントラを聴いているだけでもノリのいい楽しそうな曲でしたが、これは聴くだけじゃなくて演出込みで見なきゃだめだと思いました。落ち込んでいるゲイビーを励ます曲ですが、マラカスを振ったり合いの手を入れたり5人がとにかく楽しそう!4人が歌う様子をゲイビーがとてもうれしそうに聞いているのが微笑ましいです。ゲイビー、チップ、オジーが完全にトニセンの3人とかぶる曲でした。思えば第一幕ではチップとオジーにアドバイスをもらい、第二幕では慰められ励まされるゲイビー。3人が幼馴染でゲイビーはチップとオジーにとっての恩人だということはわかりますが、それ以上のことはわかりません。しかしチップとオジーがゲイビーのことを大好きなのはここまでの流れでよくわかります。そんな3人にトニセンの3人を投影してしまいます。「いいかゲイビー、聞けよ。お前には強い味方がここにいる。」そんな歌詞もトニセンに重なったりして。「ニューヨーク、ニューヨーク」と同じくらい、この曲をトニセンの歌で聞けてよかったです。

♬ Pitkin's Song (わかるよ)
婚約者の浮気を許していたピットキンさんもそりゃ堪忍袋の緒が切れますよね。この訳詞もほぼ原曲どおり。「この年でクレアと婚約した」の部分をソフトに歌ってみたり力強く歌ってみたり、日によって歌い方を変えていた青山さんはさすがです。歌い方を変えると言えばヒルディーがタクシーで歌う歌もそうでした。そんな違いを見つけるのも楽しかったなあ。

Subway Ride And Imaginary Coney Island (地下鉄車内と夢の中のコニーアイランド)    ♬ The Great Lover Displays Himself (グレート・ラバーが自己アピール)

赤いドレスの人形を握りしめてゲイビーが見た夢は赤いドレスで踊るアイビィ。ゲイビーの持っている「上流階級の社交場」のイメージがなんというか…ずばりトンチキ!最初は華麗に踊る紳士淑女の集まりで何の問題もなかったのに。会員制のクラブですから夜の大人の雰囲気があって全然かまわないのですが対決はないだろ、と(笑)ザ・グレート・ラバーなんてリングネームまでつけちゃってゲイビーの妄想力って一体…でもニューヨークに来たのが初めてのおのぼりさんなゲイビーがかわいらしくも見えました。2人が脱いで踊り始めたときにはここは笑うところなのかどうなのか一瞬悩みましたが、アイビィに触れたくても触れられないギリギリの踊りは見ているこちらもドキドキしましたし、坂本くんと真飛さんが大人の色気をふりまいてとても素敵でした。坂本くんが上半身裸になって踊るのは稽古の途中で言われたという話でしたが、トンチキ具合がより際立って大変よかったと思います。(褒めてます。)個人的には、ゲイビーが後ろを向いてアンサンブルの方々に服を脱がされ帽子を取られたときに髪を一度かき上げる坂本くんの仕草がたまらなかったです。