最後にもう一度、ON THE TOWNのこと

ただトニセンを見たいだけじゃなく、オンザタウンという作品に出演するトニセンを見たくて青山劇場に通いました。今のミュージカルとは違う、まったくの古典のミュージカルですがそれがかえって新鮮でとても楽しめました。演出のビルさんがオールドスタイルを大事にしてほしいと言ったそうですが、それがしっかり守られていました。

初めて見たときに今まで見てきたミュージカルと何かが違うと感じたのですが、その違和感の大きな原因はおそらくセリフと歌(歌詞のついた曲)の少なさです。違和感というか、居心地が悪いというか。セリフや歌詞でもっと説明できるような場面でも音楽と踊りだけ。昔のディズニーのアニメーションのように感じる人がいたのはそのせいかもしれません。ミッキーやミニーたちが騒動を起こしてどたばた走り回ったり、音楽に合わせて楽しそうに踊ったりする様子がこのミュージカルと重なります。言葉は最小限であとは音楽と踊りで進行していくそのペースが、今のミュージカルと比較するととてもゆっくりに感じられます。最初はそれに慣れなくて違和感を感じたのではないかと。しかし何回も見るうちにそれも徐々に心地よくなっていきました。

踊りもバレエの要素がつまっていて古典的です。そんなクラシカルな作品にトニセンの3人はぴったりはまっていました。おそらく今の彼らだからはまったんじゃないかな。もしこれがもっと若いころならここまでうまくはまらなかったんじゃないかとさえ思います。メインキャストはトニセンに限らず女性陣も含めてもうあの6人以外には考えられない、ベストな配役でした。ゲイビーは長野くんでもイノッチでもだめだし、アイビィも樹里さんやシルビアさんじゃだめ。さらに坂本・真飛ペア、長野・シルビアペア、井ノ原・樹里ペアがそれぞれ相性抜群。お互いの相乗効果でいい味を出しまくっていました。この6人をキャスティングした人は天才だと思います。大げさでもなんでもなく本当に心から。

訳詞は難しいですね。決められた音の長さの中で英語詞のニュアンスを全部伝えることは不可能ですから、大事なエッセンスだけを抜き出してそれを日本語で肉付けしていくことになるわけですが、訳詞によって曲の印象が変わってしまったりすることが今回身に染みてよくわかりました。しつこいようですが、坂本くんはぜひいつかどこかでLucky to be meをあらためて披露してください。

最初はおそらく演出通りのがちがちに固まっていたものが、回を重ねるごとにキャストの肩の力がいい具合に抜けてどんどん柔らかくなっていく様子を見て、舞台というのは公演が始まってから完成されていくものなんだということも今回強く感じました。この作品での自由度はかなり限られていると思うのですが、それでも決められた枠の中でどんどん自由になっていく。そこにはもちろん客席の力も必要で、笑いが大きな回もあれば小さな回もある中で作品がどんどん磨かれていく。そうやって日に日に進化していく作品に出会えてとても幸せでした。うまくまとまらないままここまで書いてきましたが、オンザタウンはわたしが今年見た舞台の中で一番の作品です。それは断言します。

今日はちょうど東京公演の千秋楽。キャスト、スタッフのみなさん、お疲れさまでした。そして楽しい時間をありがとうございました!特にここには書きませんでしたが、マダム・ディリー、ピットキン、ルーシー、その他アンサンブルのみなさん全員が素晴らしかったです。息の合った最高のカンパニーだと思います。残り大阪3公演、東京と同じように最高の公演になりますように。